松本氏のNICEなオィッス!
●第2回 「あむチャンのおかげです。」

椅子作りを始めて10年が経ちます。今では多くの後輩もでき、椅子作りを教える立場になりました。過去を振り返ると、正直言って椅子を作る仕事をするようになるとは入社時には思ってもいませんでした。淡々と与えられた仕事をこなす普通の営業員だったのですが、ある一つのきっかけが自分の仕事に対する考え方を大きく変えることになりました。


一番お気に入りの椅子
(写真掲載等、保護者の許可済み)

それは今から6年前のことです。あむチャン(当時5歳)の座位保持装置の修理依頼があり、病院の通園施設にお伺いし、セラピストとご両親を交えて修理内容の打ち合わせを行いました。話しを聞くと、2年前に作った椅子はずっと押入れにしまい込まれていて、作ってからその時まで1度もまともに使ったことがなかったそうです。その座位保持装置は平面形状型で、その当時の自分が見ても「伸展の筋緊張が強いあむチャンが座ることのできる椅子ではない。」と分かりましたが・・・。お母さんは「泣き虫のあむチャンを、椅子に座らせるのは無理っ!!」と断言していました。したがって、あむチャンは生まれてからこの時まで、ずっと寝たままの生活を送っていました。

セラピストとの打ち合わせの結果、平面形状だった支持部(身体を直接支える部分)をモールド型(身体の形状に合わせた座面と背もたれ部分)に作り直し、股関節の屈曲角度をより大きくすることにより、伸展の筋緊張を抑制しつつリラックスして座れる椅子に修理することに決まりました。その後、仮合せも順調に終わり、何事もなく納品することができました。それから数週間後、通園施設であむチャンのお母さんに会う機会があり、修理した椅子の、その後を聞くことができました。

お母さんの予測に反して、修理した椅子にあむチャンがびっくりするほど座れている、とのことでした。お母さん曰く「松本さん、本当にありがとう。椅子に座らせないとあむチャンが『座らせろォォォー!』って泣くようになったのよ。見える世界が変わったみたいで、毎日楽しそうに何時間も椅子に座っているのよ。」と、ものすごく嬉しそうに言っていたのを、今でもハッキリと憶えています。人のためになったようで、何かすごくイイ仕事した気分でした。振り返れば、自分にとって単なる仕事の一つだった「椅子作り」が、これをきっかけに自分の本当の仕事になったように思います。